
かつてPittsburgh,PAにはMonongahela川左岸の"Coal Hill"に向けて多くのinclinesが敷設されていた。通常の旅客用鋼索線はfunicularと呼ばれ,区別は明確でないが,inclineは貨物用のそれを指すのが一般的である。これらの路線はCoal Hillが示唆するように当初は石炭輸送を目的としたようだが,一部は旅客転用されて,今日でも2路線が残り観光名所となっている。写真はそのうちの1路線,Monongahela Inclineの山麓駅である。

1870年開業の複線交走式であるが,現存の鋼索線は単線交走式のものが殆どである。しかし単線交走式が初めて採用されたのは1879年のスイスとされ,1870年代までは複線が普通だった。写真はMonongahela Incline車内から,複線の軌道と1883年竣工のSmithfield St.橋を見下ろす。対岸はPittsburghの中心市街地である。(2019.11.17)

日本で"incline"と言えば,琵琶湖疏水の通船用に建設された蹴上と伏見のそれが想起される。蹴上インクライン(延長582m,勾配67パーミル,軌間約81/3ft)の供用は1891年なので,既に単線交走式も可能だったが,通船台車の大きさから複線が選択されたものと思われる。しかし貨物用鋼索線自体に古い路線が多いことも手伝って,複線交走式をinclineと呼ぶと誤解しそうだ。道路敷に転用された伏見インクラインと異なり,蹴上インクラインは復原・保存されているが,鋼索用の誘導滑車は復原されていない。(日本地理体系「近畿篇」1929)
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